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世界で最初の音

この世界には音がない。

無限に広がる草原と、私の背丈程度の石が一つ。

石は真っ暗な宇宙に輝く星の光を閉じ込めたように、小さな輝きがたくさん詰まっている。

表面はつるつるしていて、撫でると指先を追いかけるように光が集まってくる。

指先で弾くように石を軽く叩くと、光は逃げ去るように散っていくのだ。

私は石から少し離れた場所に腰を下ろし、思いっきり後ろに腕を広げて倒れ込んだ。

目を開けると、空にはいつも満天の星たち。

私はこの2つの宇宙の間で暮らしている。

草原だけが、穏やかな風に揺られて土の香りを運んでくる。

胸いっぱいに吸い込んで、吐き出してみる。

だけど、草がこすれる音も、自分の呼吸も聞こえない。

でも不思議に思ったことはない。

それが当たり前だから。

光と香り。

それが私の全てだった。

だけど、最近気づいたことがある。

石の中の光が減っている気がするのだ。

昔は粘土みたいな塊がたくさんあった。

石を触るときも、光を捏ね上げている感覚。

今は光の線でお絵かきしているみたい。

もしかしたら、私が触るからかもしれない。そう思った。

だから最近は石の周りに線を引いて、外側だけを歩くようにしている。

ただ、少し離れた場所から眺めているだけ。

光は私が触れなくても、少しずつ形を変えて行く。

ある時は渦を巻いてねじれた形。その次の日は、少しねじれているけど、丸くてすべすべしている感じ。

それを見ているだけでも十分楽しかった。

だけど今日、目が覚めて石を見てみると、石に一筋のヒビが入っていた。

どうして。触れていないのに。

よく見てみると、光はヒビに吸い込まれるようにゆっくり引き寄せられ、石の外側に溢れ出してしまっていた。

私はとっさに線を飛び越え、ヒビに手を押し当てる。

いつもより冷たい気がした。

だけど私が石に触れたことで、光は私の手に集まってこようとする。

『だめ!今は来ないで。』

光は隙間から溢れ出し、指の隙間からこぼれ落ちていく。

光があふれるたびに石のヒビは広がり、一筋だったヒビは珊瑚のように枝分かれし、石全体に広がっていく。

『やめて、お願い。』

声は世界に響かない。

私はどうすることもできずにその場に座り込み、草を握ることしかできなかった。

爪の間の土の感覚だけが、私を世界にとどめてくれた。

石のヒビはやがて大きな亀裂となり、石を2つに分けた。

石の中にいた光が、あたりに散らばる。

その瞬間、

......ぱりんっ!

大きな音が草原を撫でた。

私の喉は震えていた。

さらに石が3つに割れる。

「え」

私は、とっさに私の喉に手を触れる。

指先に細かく伝わる振動。

だけどそれだけじゃない。

なんだろう、この感覚。

気づけば私は石に手を伸ばしていた。

ヒビの間に指を入れ、丁寧に引き剥がしていく。

今度は、サァーという草を撫でる風の音。

次の欠片を剥がすと、キラキラと鳴る星ぼしの声。

私は夢中で石を小さくしていき、ついに漆黒の石の破片が草原に広がっていた。

石の中の光は空へ散らばり、消えてしまった。

ふと空を見上げる。

満天だった星空は静かな深淵を映していた。

手に握り込んでいた欠片を覗くと、最後のひと粒の光が残されている。

私は、目をつむり草原の空気を吸い込む。

すぅ、はぁ。

今度はちゃんと聞こえる。

どくどくという胸の音も。

石に残された最後の光を見つめる。

指先でそっと触れると、指の後ろにくっついてきた。

最後の光を見つめる。

「あなたも同じだったのね」

私の声。私の言葉。

それがたまらなく嬉しかった。

私は、その最後の欠片を両手で引き寄せ、胸元に抱える。

そうして、指先同士を絡ませ石を弾いた。